ドイツサッカー、5部所属のシュトゥットガルター・キッカーズ (Stuttgarter Kickers) の
リーグ戦での思わぬ出来事が、ドイツ国内の主要なスポーツ紙や通常のニュースメディアでも
大きな話題となった。
それは2020年10月17日(土曜日)、シュトゥットガルター・キッカーズ(以下キッカーズ)の
ホーム試合でのことだった。
雨が降り出しそうな曇り空、気温7℃のスタジアムで、
キッカーズ 対 FC ネーティンゲン (FC Nöttingen) の試合が14時に開始された。
コロナ禍で人数制限があり、観客は500人だった。
前半はもどかしい場面が多く苦しい展開だったがそれでも35分、
キッカーズのゴールで1対0となった。
そして前半終了間際の45分、キッカーズのゴールで2対0となった。
このタイミングでの貴重な2点目に、ゴールと同時に私達も立ち上がり、嬉しさで
文字通り飛び上がり、体全体であふれ出る喜びを感じていた。
「ゴーール!」の場内アナウンスも流れ、熱狂していたその瞬間、ゴールを喜んでいる
アナウンスが途中でいきなりプツッと切れた。
場内も静まった。
一体何が?
急に不安になった。
オフサイドじゃなさそうだし、だったらファウルでゴールじゃなかったとか?
訳が分からなかったものの、審判はピッチ中央を指さしている、ということは、
やっぱりゴールだったということ。
けれど、選手同士が何やら言い合っている。キッカーズの監督は審判のところへ行き、
言葉を交わしている。
なんだったんだろう?と思いながらも、試合再開となった。
相手チームの選手が、キッカーズのルーカス・クリング(Lukas Kling)選手に
ボールを蹴り渡すと、そこからクリング選手は自陣のゴールに向かってボールを蹴った。
キッカーズのゴールキーパーはそのボールを止めようとは全くせず、オウンゴールとなった。
相手チームの得点となり、2対1となった。
ちょ、ちょっと待って!
どういうこと??
全く意味の分からない展開に、私は目の前の状況を理解することが出来ないでいた。
もう一度ちょっと整理してみると、
①キッカーズの選手がゴール。
②審判がゴールを「ゴール」と認める。
③ゴールアナウンスが途中で切れる。
④試合再開
⑤キッカーズの選手が自発的オウンゴール。←どういうこと?!
一連の流れを追っても理解できずに、あるのは混乱だった。
2対1となった直後、ハーフタイムに入った。
ハーフタイムで、私達もこの状況をどうにか理解しようと努めた。
確認したところ、
相手チームの選手が、味方がピッチ上で倒れた為、一旦試合を止めるために
ボールを外に蹴り出した。
しかし、キッカーズの選手はその意思に気づかず、単純にミスキックでボールが
外に出ただけだと思い、普通に試合を再開しゴールに至った。
キッカーズのゲーマン (Gehrmann) 監督は、事実を審判に確認。
相手のミスキックではなく、意図的にボールを外に蹴り出したことが分かり、
フェアになるようにキッカーズの選手に、オウンゴールの指示を出した。
何百試合とサッカー観戦をしている友人や夫も、テレビでは似たような状況を1回
観たことがあったものの、
目の前でこのようなプレーを観たのは初めてとのこと。
もちろん私も。
自発的なオウンゴールをした理由が分かったものの、私はまだ動揺を残したまま、後半が始まった。
後半開始直後の47分、キッカーズのクリスチャン・ヒレス(Cristian Giles)選手の
ゴールで3対1となった。
最終的に、4対1でキッカーズがこの試合を勝利した。
この一戦はリーグ戦で、前回の試合までキッカーズが2位、ネーティンゲンが3位につけていて、
その差わずか1ポイントという、どちらも、どうしても勝ちたい試合だった。
更に、わざとオウンゴールをする直前のスコアは、前半終了間際で2対0。
4対0のような点差があったわけではない。
その状況で、自発的に2対1という行動をとったキッカーズ。
「あぁ、でももったいない・・・」と試合中になかなか吹っ切れなかった私とは大違いの
監督とこのチームを心から誇りに思った。
このオウンゴールはフェアプレーとして、ドイツのスポーツ紙やスポーツ番組、
通常のニュースメディアに至るまで数多く取り上げられ、一躍話題になった出来事だった。